心に響く言葉

日本文学

「海と夕焼」(三島由紀夫)

 勝上ヶ岳の草木は、影にようやく犯されて、かえって葉脈や木の節々の輪郭がはっきりしている。多くの塔中のいくつかは、すでに夕闇に没している。


 安里の足もとにも影が忍び寄り、いつのまにか頭上の空は色を失って、鼠いろを帯びた紺に移っている。遠い海上の煌めきはまだ残っているが、それは夕暮の空に細く窄められた一条の金と朱色を映して いるにすぎない。


 そのとき佇んでいる安里の足もとから、深い梵鐘の響きが起こった。山腹の鐘楼が第一杵を鳴らしたのである。


 鐘の音はゆるやかな波動を起し、麓のほうから昇ってくる夕闇を、それが四方に押しゆるがして拡げてゆくように思われる。その重々しい音のたゆたいは、時を告げるよりもむしろ、時を忽ち溶解して、久遠のなかへ運んでゆく。


 安里は目をつぶってそれをきく。目をあいたときには、すでに身は夕闇にひたって、遠い海の一線は灰白色におぼめいている。夕焼はすっかり終わった。


 寺へかえるために、安里が少年を促そうとしてふり向くと、両手で抱いた膝に頭を載せて、少年は眠っていた。


 

「正法眼蔵」(道元)

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第二 摩訶般若波羅蜜
觀自在菩薩の行深般若波羅蜜多時は、渾身の照見五蘊皆空なり。五蘊は色受想行識なり、五枚の般若なり。照見これ般若なり。この宗旨の開演現成するにいはく、色即是空なり、空即是色なり、色是色なり、空即空なり。百草なり。萬象なり。般若波羅蜜十二枚、これ十二入なり。また十八枚の般若あり、眼耳鼻舌身意、色聲香味觸法、および眼耳鼻舌身意識等なり。また四枚の般若あり、苦集滅道なり。また六枚の般若あり、布施、淨戒、安忍、精進、靜慮、般若なり。また一枚の般若波羅蜜、而今現成せり、阿耨多羅三藐三菩提なり。また般若波羅蜜三枚あり、過去現在未來なり。また般若六枚あり、地水火風空識なり。また四枚の般若、よのつねにおこなはる、行住坐臥なり。

 

「正法眼蔵随聞記」(道元)その1

「正法眼蔵随聞記」(道元)その2